みなさま、こんにちは。ケニア事務所の出口です。
12月1日は、HIV/エイズのまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消を目的とする「世界エイズデー」でした。
「レッドリボン」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。エイズで亡くなった方に対する追悼の気持ちとエイズに苦しむ人々への理解と支援の意思を表明するためにレッドリボンをシンボルとした運動がアメリカのニューヨークで1991年に始まり、現在は世界中に広がっています。
このレッドリボン運動は、今年で30周年の節目を迎えました。
HIV/エイズは「後天性免疫不全症候群免疫」と言い、体内の免疫システムが破壊されてしまう病気です。その結果、肺炎や結核などをはじめとする日和見感染症で亡くなる方が多くいます。
HIVウイルスに感染し、発症するとエイズ患者となります。現在の時点では、薬の服用等を行ってもHIVウイルスを完全に排除することはできませんが、エイズを発症しないために抗HIV薬を服用することで、感染していない人と同じくらい長く健康的に生活できることが分かっています。そのため、早期発見・早期治療が重要です。
UNAIDS(国連合同エイズ計画)によると、2020年(年間)の世界のHIV陽性者数は3800万人、エイズによる死亡者数は69万人、ケニア国内においてはHIV陽性者数が140万人、エイズによる死亡者数は1.9万人だそうです。
日本では「HIV/エイズは身近な病気ではない」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、2020年の国内HIV感染状況を見ると、1年間で750名ほどの新規感染者が報告されているという数字が出ています。自分のため、大切な人のため、健康に生活していくために、この機会にエイズ検査に行ってみるのもいいかもしれません。
さて書き出しが長くなりましたが、本日は、以前のブログ記事(ケニアでの母子保健事業の紹介)で簡単にご紹介させていただいたNICCOが主催する母子保健講習会(以後、講習会)について、実際どんな風に行われているのか紹介させていただきたいと思います。
今日訪問したのは、16個ある講習会グループのうちKanyamony(カニャモニ)という村で行われている講習会です。
このグループの女性たちは毎週水曜日の14時半に集まって、1時間ほど母子保健について学んだり、育児や生活の悩みを相談し合っています。
講習会では、基本的に下の写真のような教材を用いて、毎週異なったテーマを取り上げています。この教材は、ケニア保健省とユニセフなどの国際機関が共同で作成したものです。NICCOは、各村の母子講習会で使っていけるよう製本し配布しています。
▲教材の表紙。かなり使いこまれている
講習会での講師は、村の保健ボランティアであるCHV(コミュニティヘルスボランティア)や、NICCOのケニア人スタッフ、時には参加者であるお母さんたちが務めることもあります。
今日のKanyamonyでは、参加歴の長いベテランのお母さんであるJosephineが講師を務めるようです。
今日の講習会のトピックは、たまたまですが、HIVの母子感染についてでした。
教材の図解ページを見てみると、色々な絵が描いてあります。反対側には、このようにテーマごとのポイントが英語で書かれており、紙芝居のようになっています。
▲要点をまとめた裏ページ
▲今日のトピック(図解ページ)
理解が深めやすいようJosephineが図解のページをお母さんたちに見せながら行っています。
Josephineが、参加者のお母さんたちに何が見えるか聞いています。
「母乳をあげているわ」、「出産中ね」、「病院で看護婦さんが何やら検査している」、「一緒にいるのは旦那さんかしら」など、色んな言葉がどんどん出てきます。
▲今日の講師を務めるJosephine
▲講習会の内容をメモする書記
ケニアでは、妊娠が分かった女性は保健医療施設の受診をする際にHIV検査を勧められます。冒頭にお伝えしたように、ケニアでのHIV感染者数/AIDS患者数はかなり多く、また早期発見による早期治療が重要なためです。
ケニアでは現在、抗HIV薬やカウンセリングの提供などのサービスが無料で行われています。私たちが支援している医療保健施設(エアポートヘルスセンター)にも、こういったサービスを行っています。
Josephineが次にお母さんたちに質問したのは、HIVの母子感染が起こる3つの感染経路についてです。
お母さんたちは、「妊娠中」、「出産時」、「授乳時」とスラスラと答えていました。これらを防ぐために毎日決まった時間に薬を飲まないといけないのよ」と付け足してくれたお母さんもいます。
日本人よりもHIV/エイズについて知っているのでは、と感心してしたと同時に、それくらい身近にある病気であることも感じさせられました。
講習会の終盤、お母さんたちが話していたのは、エイズはもはや「死の病気ではない」ということです。HIVに感染しないことが一番だが、感染してしまったとしても、きちんと薬の服用をはじめとする治療を行うことで、子どもを産むことや家族とこれまで通り過ごし続けることもできる、そんなことを話していました。
▲母子保健講習会の風景
▲いつでも見返せるように講習会の内容をメモしたノート
こんな風にして今日の講習会はお開きです。
講習会後にJosephineに少し話を聞いてみました。
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私:自分が講師を務めるときに注意していることはある?
Josephine(以後、J):文章は英語で書いてあるけど、村には英語があまり得意じゃない人も多いの。違う民族の人もいる。だから、基本的には、英語で説明した後に、スワヒリ語や民族語で翻訳して、みんなが理解しやすいように気を付けているよ。
私:なるほど。時には、3つの言語で講習会が行われているんだね。(すごい…)
今日のトピックについてだけど、自分の身近に、自分のHIV感染を公表している人っているの?
J:いなくはないけど、やっぱり基本的にはみんな言わないよね。
私:HIVに感染している人に対して、偏見があるってことのかな?
J:HIVに偏見を持っている人はたくさんいると思う。エイズのことを正しく理解していない人が多いのも事実。私たちの中にもそういうお母さんたちもいたけど、こういう風に知っていくのが大事だよね。正しくエイズについて理解すること、自分の感染状況を知ること、薬を飲んで治療を続けていくことが本当に大事だと思う。
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講習会のサポートを担当しているNICCOの現地スタッフからは、今後もこの講習会が続き、正しい母子保健の知識が地域に広まっていくためにしっかりサポートしていきたい、と心強い言葉も聞けました。
講習会の教材は、妊産婦や乳幼児の食事についての栄養面、母乳育児、幼児の発達、衛生面のものまで、幅広く網羅されています。講習会に参加するようになってから、学んだことを日常生活で活かしてみた、子どもが元気に成長している、と報告してくれるお母さんたちもおり、私たちの励みになっています。
今後もケニアでの活動にご注目ください!
▲参加者のお母さんたちの子供たち。次の講習会で講師を務めるかもしれません