ケニア母子保健事業(過去の活動内容)

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2019年3月よりNICCOは、ケニア共和国キスム郡で、女性と子供たちの命を守るための事業を行っています。

プロジェクトの背景

1.高い母子死亡率

キスムにいると、子が母親を失った、あるいは親が子を失ったという話を頻繁に耳にします。また、実際に泣いている母親や子供の姿を目にします。キスム郡は、ケニアの他の地域と比べて、妊娠中または出産時に亡くなってしまう女性や、5歳未満で亡くなってしまう子供の割合が多い地域で、その高い母子死亡率は国際的に解決しなければならない課題にもなっています。

2.設備と知識の不足

キスム郡の高い死亡率の要因の1つは、適切な産婦人科設備を持つ病院の不足です。地域の病院が、陣痛が始まった妊婦を受け入れられなかったり、出産中の不測の事態に対応できなかったりすることで、女性や新生児の命が危険に晒されてしまいます。

また、別の要因として、住民たちが母子保健の知識を十分に持っていないことも挙げられます。子育てや栄養、病気、衛生環境などに関する知識がなく、健診や予防接種、出産のために病院に行かなければいけないことも知らない人が多くいます。

(左)事業地地域の病院の産婦人科スペース。小さな分娩室に粗末なベッドがあるだけで、必要な機材が不足している。

(右)栄養失調の乳児。この数週間後に亡くなりました。ちゃんとした栄養の知識や、病院のサポートがあれば、救えた命でもあります。

プロジェクトについて

1.産婦人科設備の強化

地域の女性たちが適切な産婦人科サービスを提供受け、安心して出産を行うことができるよう、NICCOは事業地の病院に産婦人科設備の建設や提供を行いました。また、病院へ繋がる道の舗装をしました。その結果、以前よりも多くの人たちが、産前健診や子供のためのワクチン接種に訪れるようになり、この病院で出産する女性の数も倍以上に増えました。

(左)新しく建設した産婦人科棟の待合室。連日、通院する妊産婦や子連れのお母さんたちで賑わっています。

(右)きれいで広々とした施設なので、出産後のお母さんたちもゆっくり体を休められます。

2.母子保健知識の向上

住民たちの母子保健に関する知識を向上させるため、NICCOは地域で誰もが母子保健知識を定期的に受けられる仕組み作りを開始しました。ここでの主役は、コミュニティ・ヘルス・ボランティア、通称「CHV」と呼ばれる住民有志39名です。

NICCOはまず、このCHVに対して、200時間に渡る母子保健知識の研修を行いました。研修を受けたCHVは、各自担当の村で住民を集めて母子保健グループを作り、その後、グループメンバーに対して、毎週、母子保健知識を啓発するための講習会を行います。

この講習会は2020年2月から開始され、途中、新型コロナの影響で5カ月の中断期間はあったものの、2021年4月1日現在までで合計開催数は3,600回に達しています。参加者も女性を中心に200名を超え、増え続けています。

(左)CHVは毎週、各々の担当地域のお母さんたちを集め、母子保健講習を行っています。

(右)母子保健講習では、子供の栄養を考えた料理を作る、調理実習も定期的に行われています。

【コミュニティ・ヘルス・ボランティア(CHV)について】

こんにちは!ケニア駐在員の清水です。今回は、母子保健事業で一緒に働いている住民ボランティア(Community Health Volunteer、以下CHV)とはどんな人たちなのか、紹介します。

CHVとは、地域の保健ボランティアです。自分が住む村で数十世帯~100世帯以上を担当し、日々家庭訪問をするなど、地域の健康を守っています。NICCOの事業では、地域のお母さんたちを集めて母子保健に関する講習会を開催する役目を担っています。

彼らは、行政の保健政策の下で採用された人々であり、そのためキスム郡では行政からCHVに対して月々2000円ほどが支払われることになっています。しかし、CHVの仕事量に比べると、月々2000円程度というのは決して多くはない金額ですし、行政の腐敗が激しいケニアでは、その2000円ですらも、何カ月も支払われないといったことも珍しくありません。言ってみれば「ほぼ無償」という条件の中、どうしてみんな働き続けるのか?ケニアに赴任した日から、私はそのことがずっと不思議でした。

あるCHVの話です。彼女は夫と3人の子供たちと一緒に暮らしていますが、夫は子供たちの実の父親ではありません。子供たちは、昔彼女が首都ナイロビに住んでいたころに産まれましたが、それは幸せな出産ではありませんでした。生活も厳しく、一番下の子が生後2週間の時に、子供たちを抱えて命からがら親戚のいるキスムに逃げてきました。彼女はそこまで話した後に、CHVとして働く理由を教えてくれました。「未来に対して前向きになれない人や、望まない妊娠をした人を見ると、昔の自分を見ているような気分になる。私も正しい選択ができなかった時もあるし、後悔していることもある。だから、道を踏み外しそうな人たちを正しい道に導くことで、昔の自分も少しずつ救われているのかもしれない。それに、レイプの結果生まれた子供を、心から愛することができるということも、私は知っている。苦しい思いをしている人にはそれを伝えたい」と。

私たちが活動しているコゴニ準区は、スラム地域も内包している貧しい地域です。きっと、彼女以外にも、苦しい過去や現状を抱えるCHVは多くいます。だからこそ、ほかの人の痛みを理解し、「みんなにより良い未来を選択してほしい」という思いから、CHVとして働いていると分かったとき、自分の苦しい経験を前向きな力に変えるその強さに脱帽するとともに、彼/彼女たちこそが、地域やケニアという国全体を変えていくための大きな力であると再認識しました。

CHVだけではなく、住民向け講習会に集まってくる地域のお母さんたちにも、同じように強い志を持った人がたくさんいます。彼/彼女たちと一緒に地域をよくしていけるよう、これからも住民のそばに寄り添った支援を続けていきます。

駐在員の清水(左)と地域母子保健講習会に参加する子連れの女性。

3.コロナ禍における若年妊娠防止活動

ケニアでは、10代の若者の妊娠するケースが非常に多く見られます。若年妊娠は、若者の修学や就職の機会を奪うことから、教育や貧困の問題でもあり、いじめや家庭内での不当な扱いにも繋がる人権問題でもあります。そして何より、知識の十分にない若者が誰にも相談できずに子育てを行うようになることから、重大な母子保健問題にも繋がっていきます。

2020年、新型コロナの影響を受け、3月末から翌年1月までの間、ケニア全土の学校が休校することとなりました。そして、この間、時間を持て余した生徒たちの間で性交渉が増え、女子生徒の妊娠するケースが急増し、もともとの若年妊娠の問題に拍車がかかる事態となりました。

NICCOは母子保健事業を行っている観点から、こうした状況に対応するため、2020年9月半ばから10月末までの間、地域の少年少女(13歳~21歳)を対象に、若年妊娠防止を目的とした講習会を実施しました。全17回の開催で、域内の22村から合計546名(男子130名、女子416名)が参加し、若年妊娠の危険性、原因および防止策や、性感染症、避妊の必要性、また10代の若者たちが抱える問題の1つとして薬物乱用などをテーマとした講義やディスカッションが行われました。

その後、参加した若者からは再度開催してほしいとの声が多く届いたため、今後は、このような集会を定期的に開催していけるよう、現在調整を行っています。

(左)Lwara村(2020年10月20日実施)。熱心にノートを取る参加者の姿も見られた。

(右)Wachara村(2020年9月25日実施)。「性行為ってなに?何のためにするの?」といった素朴な質問から大きく議論が発展した。

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