2025年04月08日(火)

パキスタンからのアフガニスタン帰還民に対する支援について

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こんにちは。アフガニスタン事業担当の齋藤です。今回は、今年2月から8月にかけて実施した、パキスタンからのアフガニスタン帰還民への支援についてご紹介します。

 

2021年に武装勢力タリバンがアフガニスタンで実権を掌握して以来、その圧政から逃れるため、多数のアフガニスタン国民が隣国パキスタンに避難しました。しかし、昨年10月、パキスタン政府は国内の不法滞在者の強制退去を発表し、約130万人ともいわれる同国在住のアフガニスタン難民が自発的に帰国せざるを得なくなりました。

その結果、本年10月末時点で累計約76万人がアフガニスタンに帰還し、今なお帰還が続いています。

 

これら帰還民の多くは住む場所もままならず、十分な食べ物もなく、居住地付近に給水設備がないため、遠くまで不衛生な水を汲みに行くか、水を購入せざるを得ない状況にあります。

また、不衛生な水や衛生設備の不備により、多くの帰還民が下痢などの健康問題に悩まされています。そこで当会は、帰還民が最も多く居住するカンダハール州に給水設備を整備すると共に、衛生用品と食料を配布することにしました。

 

(カンダハール州の地図)

 

具体的には、カンダハール州の3つの都市(カンダハール市、ダマン地区、ザレー地区)の計5つの地区を対象に、井戸と水汲み場を設置しました。強い日差しから身を守るため、水汲み場には屋根を架け、足場が泥だらけにならないよう、砂利を敷きました。

 

(設置された水汲み場と水汲みをする子供達)

 

また、ウォーターポンプを稼働させるためのソーラーパネルも設置しました。これにより、付近の3,000世帯、約18,000人が日常的に安全な水を利用できるようになり、これまで水の購入に充てていたお金を他の用途に充てることができるようになりました。

 

(設置されたソーラーパネル)

 

また、石鹸などの衛生用品と手洗いなどの衛生習慣を身につける教育リーフレットを500世帯、計3,000人に配布した結果、住民は衛生を保つことの重要性を理解し、基本的な衛生習慣を身につけることができました。

更に、コメ、レンズ豆、油などの食料2か月分を、500世帯、計3,000人に配布した結果、住民の栄養状態が改善し、食糧不足から一食抜いたり近所に食べ物を頼ったりといったことがなくなりました。

 

 

(食料を受け取った帰還民)

 

 

一方で、事業実施の過程においては様々な問題が発生しました。例えば、カンダハール市では、予想よりも2倍以上深い井戸を掘らないと水源に到達しないことが判明し、必要な資機材を短期間で発注し直さなくてはならなくなりました。

また、事業開始後に新たな帰還民居住区を建設することが発表され、当初予定した地域に代えて、新しい居住区に井戸を掘るよう当局から指示が出され、事業内容を急遽変更せざるを得ませんでした。

 

更に、タリバン暫定政権が女性の就労を厳しく制限しているため、女性職員を男性職員とは別の建物で勤務させるなどの工夫が必要となりました。また、女性に対するインタビューが制限されたため、事業の効果について十分なフィードバックが得られませんでした。

これらの問題に対する万能な解決策はありませんが、現地情勢を詳細にフォローしつつ、普段から現地当局と密接な意思疎通を図っていくことが重要だと認識しました。

 

 

ところで、いくら素晴らしいプロジェクトを実施しても、その場限りでは現地の人々のためにはなりません。

本事業では、事業効果を持続させるため、各事業地に現地コミュニティを主体とする水管理委員会を設置し、井戸や給水設備の維持管理・修繕を一任しました。また、衛生用品や食料品の配布に当たっては、シュラと呼ばれる現地の有力者から成る諮問機関と協力して、最も支援が必要な人々を選びました。

このようにプロジェクトに現地の関係者を関与させることで、プロジェクトに対する主体性が生まれ、プロジェクトの効果が持続することが期待されます。

 

 

当会は20年以上に亘りアフガニスタン支援を行っていますが、アフガニスタン国内および周辺国・地域における政情不安や紛争、気候変動などの様々な要因により、同国の人道状況は悪化を辿るばかりです。

そのような中でもどのような支援が真に現地の人々の役に立つのかを考えながら、現地の人々に寄り添う支援をこれからも継続していきたいと考えております。皆様の温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。