こんにちは。
ヨルダン事務所インターンの國崎です。
先日、女性向けプログラムに参加しているシリア人女性の方々に、ヨルダンに避難してきた経緯、家族や生活の状況などをお話ししていただく機会を得ました。今日は、そんな女性たちの生の声をみなさまにもお届けしたいと思います。
1人目:ハシミーヤ市での手作り石けん教室の参加者、Wさん(29歳)
家族は、夫、息子(12歳、2歳)、娘(10歳、8歳、6歳)の計7人。ヨルダンへ避難してくる前は、シリアのホムスで暮らしていました。
ホムスという街は、ダマスカスやアレッポに続くシリア第三の都市です。反体制派が拠点とした「革命の首都」と呼ばれ、2012年から2015年冬まで3年に渡り、政府軍から包囲攻撃を受けた激戦地です。Wさんとその一家は、2013年にヨルダンへ避難し、当初はヨルダン北部のザアタリキャンプで生活していました。
「キャンプを出るのにお金が必要だとヨルダン人の男に言われて、150~160JD(当時の日本円で約2万4千円)を払いました。全財産でした。」
Wさん一家は、なけなしのお金をだまし取られたのです。私は目を見開いてしまいましたが、彼女の口調は静かなものでした。
その後、一家は何の代償も支払うことなく(当然のことですが)ザアタリキャンプを出て、ザルカ県・ハシミーヤ市に腰を落ち着けました。
「最初のころはシリアに帰りたいとずっと思っていました。けれど今は、援助や夫の仕事があるので以前より生活は良くなっています」
一家は、援助機関からの食料支援を毎月受けており、大黒柱の夫は日雇いでビルや住宅の建設の仕事をしています。
「ほかにも支援がほしいですか?」私は彼女に尋ねました。すると、意外な答えが返ってきました。「いえ、以前より状況が良くなっているので、ほしいとは思いません」。
5人の子どもの将来のことを考えたら、現在の収入で十分なはずがありません。面と向かって要望を口にすることをためらったのかもしれません。ですが、もしかすると、我々の想像だにしない苦境を経験してきたからこそ、いまの暮らしをありがたく感じているのかもしれないと、私はそのとき思いました。
石けん教室に参加した理由について、彼女は「石けんを作って収入にしたいから」と答えてくれました。将来、はにかむような笑顔とともに、手作りの石けんを見せに来てくれることでしょう。
▲ヒアリング風景。左がシリア女性、右は女性プログラム担当ローカルスタッフ。
2人目:編み物ワークショップの参加者Hさん(39歳)
このワークショップは、ザルカ市で提携にある現地NGO・ベイトアルヘイルの施設で実施しているものです。Hさんの家族は、夫、2人の息子、3人の娘の計7人。すでに結婚している長女から末っ子の2歳の男の子まで、幅広い年齢のお子さんがいらっしゃいます。2013年、ダマスカスからヨルダンへ避難し、ザアタリキャンプで1週間過ごした後、ザルカに移ってきました。
私はアラビア語が分からないので、現地スタッフに通訳として間に入ってもらうのですが、Hさんは厳しい表情で私に直接語りかけてきました。
「生活はとても苦しい。家賃や電気代を払うお金が足りない。」
Hさん一家も、さきほどのWさん同様、毎月の食料支援と夫の日雇いの仕事(コーヒーショップ)が唯一の収入です。まったくの編み物初心者だったHさんがこのワークショップに参加したのも、収入源にしたいと思ったからだそうです。
このワークショップは収入創出を主眼として行っているものではありませんが、Hさんのように目標を高く持って参加してくれる方がいるのは喜ばしいことです。これまで家庭で過ごしてきた女性たちにとって、収入を得るまでの道のりは険しいものです。しかし、こういったプログラムを足がかりに学んだ知識や技術を自ら磨いていくことで、初めて収入創出の機会を見つけることが可能になると思います。
「18になる上の息子は、1年前ドイツに渡ったの」
ヨーロッパ風の建物を背景に笑顔を浮かべる息子さんの写真を見せてくれながら、Hさんはこう続けました。
「仕事はないけれど、独学でドイツ語を勉強しているところ。私たち家族もドイツに行きたいと希望しているけれど、なかなか難しい」
内戦が長期化しいまだ終息の兆しが見えないいま、第三国定住を希望するシリア難民の数は急増しています。2015年には5万3千人余りが第三国定住を希望しました。しかし、希望者数が受け入れ枠を大きくオーバーしているのが現状です。
息子のためを思ってとはいえ、子どもを一人見知らぬ国へ送り出したHさんの気持ちはいかばかりだったでしょう。家族を置いて旅立った息子さんの心中も察するに余りあります。1日でも早く、Hさんの家族が全員そろって新たな生活を始められることを願うばかりです。
終わりに
辛い体験をあえて語ってもらうのですから、多少の引け目や申し訳なさを感じながらのヒアリングとなりました。しかし、わずかな時間ながらもひとりひとりと向き合うことで、この世界で何が起きているのか、彼らを支援するとはどういうことなのかを実感する機会となり、こうした仕事に携わりたいと強く思った当時の気持ちに立ち返ることができました。
このブログを読んで下さった方々にも、遠い国の途方もない出来事と捉えるのではなく、そこで一生懸命生きているひとりひとりを思い浮かべながら、シリア難民問題に関心を持ち続けてほしいと思います。
最後になりますが、快くヒアリングに応じて下さった女性たちに心から感謝申し上げます。